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序章

 電力会社から、節電が強く叫ばれている昨今ですが、「節電」という言葉の意味合いは、世の中で必ずしも正しく理解されていないように思います。

 昭和49年(1974年)のオイルショック時の電力不足は、発電燃料自体が不足したことにより、電力使用制限令によって全体的に電力量を抑えることが節電の目的でした。いわば電力供給量が絶対的に不足していた訳です。また最近では、地球温暖化対策やそれに伴う京都議定書によりCO2排出量削減のための節電が叫ばれました。

 これらに対して、今回の震災による原発事故に端を発する電力不足とは、原発再稼働にも絡みますが、ピーク時の発電能力が不足しているということで、本質的に意味合いが異なります。石油不足の時には、昼夜を問わず電気使用総量を減らさなければいけませんでしたが、今回は、原発停止のためにピーク時の発電能力が足りなくなったということですから、「ピーク時に如何に電気を使わないか」ということが節電の本質となっています。

 火力発電所を動かす石油やLNG(液化天然ガス)は買えるので、原発停止で電気代は高くなるかも知れませんが、ピーク時以外は電力不足ということにはならないのです。

 夜中やピーク時以外に節電をすることは、地球温暖化対策や電気代を下げるという視点では重要なことですが、それをしても、ピーク時に使用量を減らす、という現在の危機への対処としては効果がありません。現在の状況下で一番肝心なのは、ピーク時の節電です。

 去年の計画停電のように、ピーク時間帯以外の電気も止めてしまう、というのはピーク時の電力不足対策という意味では効果はありません。逆に言えば、計画停電を防ぐためには、ピーク時の使用を減らす、ということに尽きるのです。

 「電力不足」や「節電」といった同じ言葉で表現されていますが、これまでの問題と今回の問題とでは、根本的に意味合いが異なるのです。

 ピーク時間帯の電力が足りないのでどうやってやりくりをするかを考えることは日本全体の問題です。しかし最近電力会社からよく言われる「ピークシフト型」のプランは、余りに供給側(電力会社)の都合で進められているのではないでしょうか。

 例えば、東京電力や関西電力の一般家庭向け「ピークシフト型」のプランを見ると、夜中の23時から早朝7時まではフラット料金に比べて5~6割もの割引になるものの、朝7時以降13時までと午後の16時から23時までは現状よりやや高め、昼過ぎの13時から16時まではフラットプランのなんと2~3倍近いという料金案です。これは高額料金でピークを抑えるマクロの発想、つまり電力会社という供給者側の発想ですが、個別のユーザーの事情に配慮したミクロの発想、つまり需要者側の発想とは言えません。早朝7時以前と深夜23時以降だけと言われても、この割安価格のメリットを活かせるライフスタイルというのはそうそうないと思います。その結果として、平均的なユーザーの使用実態をシミュレーションすると現状より値上げになるのですが、それがこの時間帯別ピークシフトプランによってオブラードに包まれているような気がします。

 電力会社がこのような値上げを必要とする論拠としては、(1)震災復興(2)原発停止(3)火力燃料値上がりがあります。これらの事情を理解することはできますが、どれもみな供給者側の都合です。自由競争市場ならコストアップをそのまま価格に転嫁することはできません。その前に、電力会社の自助努力(燃料費や経費などのコストダウン)が先ずありきです。そして、電力会社が要請する「節電」を実行するためには、先ずピーク時の電気使用量を下げるためのノウハウをきちんと共有しておく必要があります。そしてそれだけでなく、契約料を下げる知識もしっかりと持っておくことが大切です。なぜなら、節電を通じて社会に貢献することで自社の経費削減にもなることは、節電に対して二重のインセンティブになると思うからです。

 私は、電気の専門家として、供給者視点の節電ではなく、ユーザー視点での得する節電を提案したいと思います。

 これらは相反するものではなく、ユーザー視点の節電をすることで、供給者が求める節電にも対応し、日本全体の問題解決に役立てば、との思いで本論をまとめることにしました。

 ピーク時の電力使用を抑制しなければならないとは言っても、何でも片っ端から機械を止めればいいのではありません。24時間連続運転している設備を一旦止めたら経済的効率が極めて悪くなります。寧ろ断続的に、またはスポット的に使っているような機械を止めたり、設備の稼働時間を変えるのが一番良いのです。例えば、金属をプレスして形を変え熱処理する場合、熱処理工程は連続運転なので止められないが、プレス工程は前もって朝早くからまとめて作り置きすればよいでしょう。

 ピークの負荷設備を他の時間帯にスライドすることで、電力ピークの消費を少なくできます。

 世間ではスマートメーターの話題が頻繁に取り上げられています。しかし、電力を「見える化」するだけではピーク時の節電も電気代の削減もできません。しかも、一度計測して電力使用状況を把握したら、あとは滅多に計測することのないメーターを買い取り、或いはリースして「見える化」データをせっせと揃えていても電気代削減には結び付きません。大手の飲食チェーン店の専務から「『見える化』で毎日膨大な資料が机に届けられるが、これらをどうしたらいいのか」と相談を受けたことがあります。私は「捨てましょう」と答えました。データをただ集めるのではなく、計測に極力コストをかけずに電力ピークを捉え、ピーク時に節電する、ピークとなる仕事をスライドするための具体的な手法を検討することが重要です。
その意味で、私のところでは予測機能付きピーク電力計測器を無料で貸し出しています。
電力会社の発電状況によってお客様の設備を強制的にピークカットするやり方では、確実に仕事に影響が出ますし、現実的にも不可能でしょう。

 反対に、ピークをスライドする考え方はこれまで殆どなかったため、そのやり方も余り研究されていません。しかし、企業の業態や仕組みによって色々なやり方があると思います。それぞれの企業の実態に合わせて経営者や現場の社員が自ら考えて、自分たちに一番相応しい「ピークスライド」、即ち、ピークとなる仕事時間のスライドを実現していくことが大切です。

 ピーク時の使用電力を減らすことで基本料金が下がります。この「節電」「経費節減」に加えて、生産方法を見直すことで経営の「合理化」にも繋がる、と一石三鳥です。

 「ピークスライド」をみんなが考えていけば電力危機は必ず回避できます。政府の電力需給検討会合の委員から電力会社に対して、危機回避の知恵を求めていますが、それでは本質をみた解決策は出てきません。電力供給量は決まっている訳ですから、売る側が知恵を出すことではないのではなく、買う側、使う側が知恵を出して使っていくことが最も大切なことです。

 「ピークスライド」によって、節電、経費節減、合理化をする方策を本論で考えていきたいと思います。

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川合 善大

経営戦略家。株式会社にちほシンクタンク、にちほエコ株式会社や株式会社日本電気保安協会などを傘下にもつ、にちほHD(Nichiho Holdings) CEO。 また社会福祉法人 七施 理事長として認可保育園を経営。 著書に「3%の経営発想力」、「儲ける社長の『頭の中』」、「利益を生み出す逆転発想」などがある。

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