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トップの役割

「節電は、仕事のやり方を変えることで実現できる-トップ自らが取り組むべきこと」

 ピークにある負荷をスライドする、つまり仕事の時間帯をスライドするという決断は、現場の担当者では責任問題もあってなかなかできません。現実にそういう提案を持っていっても、現場ではすぐに「自分にはできない、上に言って」となりがちです。ひどい時は、当社の提案をその場で握り潰してしまう、ということも多くありました。現場はこれまで慣れ親しんだやり方を余り変えたくないものです。

 現場の方の多くは、仕事のやり方を変えずに節電に取り組もうとしますが、根本的には「仕事のやり方」を変えないと電気の最大使用値は変わりません。事業活動において、電気は仕事のために使うのですから、仕事のやり方を変えれば必然的に電気の最大使用値が変わってくる訳です。

 いくつかの事例をご紹介しましょう。

 まず、卵や豆腐を入れる塩ビパックを製造するA社の話です。塩ビシートを真空成型しカットする工程は普通水平に流す訳ですが、A社の社長は、3階建て工場の上から下へ垂直にシートを流せるようにラインを改造しました。一番上にシートを巻いたロールを置き、下に引っ張り、途中で真空成型し、カットしたものをそのまま下に落とす。いわば横のものを縦にする方法に変えました。夜中に製造し、翌朝にパート社員が集めて箱詰めする訳です。電気の使用が夜中になり、昼間は機械を使わない仕事になりました。深夜の無人工程へと仕事のやり方を変えることで、電気代が安くなり、機械に付く人が要らず人件費が安くなり、夜勤が減り従業員にも喜ばれました。

 また、ある老人ホームでは、給食用ワゴンの保温器にスイッチを入れるタイミングが入浴時間と重なってピークが出るため、保温器の温度と保温時間の関係を研究し、保温器にスイッチを入れるタイミングをずらすことでピークを抑えることに成功しました。

 次に、 大手の外食チェーン店O社では、ピーク電力を出す昼食時のエアコンを落とすことができないため、代替手段を研究した結果、大容量電気湯沸かし機能の付いた大型業務用食洗機を、常時運転から、ピーク時間帯以降にまとめて稼働させる方法に切り替え、大幅なピーク消費電力の削減に取り組んでいます。

 更に、ビジネスホテルではチェックアウト時間が集中して、エアコン、部屋掃除、リネン洗濯などによる電力ピークが起きるため、「アーリーチェックアウト割引」プランを導入することによって、ピーク電力を分散させる効果を実験しています。

 これらのこの経営者の発想と実行力は素晴らしいと思います。このように仕事のやり方を変えると、電気のピーク時間帯に電気の使用を減らすことができます。電気技術者任せにするのではなく、経営者自らがこういうことを考えていかなければならない、と思います。

  その仕事の仕組みを変えることは担当者任せ、電気技術者任せではできません。経営者自らが考え、対応すべき課題です。

 或いは、「わが社でピークスライドをするにはどんな方法があるかを考えて、実行せよ」という指示をトップが出し、最終的にはトップが決断してあげる、ということが重要です。

 どんな仕事でも、全く新しいことを決めるのは比較的簡単です。前例がないから決めやすい。また、前例がないから必ず進歩するし失敗も少ない。しかし、決まっていることを止めて、現状を変えていくことは非常に難しいものです。失敗すれば前のやり方の方が良かった、という声がすぐに出てきます。そういう声に対抗するのは、現場の担当者レベルではできません。上位下達で変えていかねばなりません。現場に話してもすぐに「やめよう」となってしまいますが、上から方針・指示が出ていれば、実行せざるを得なくなります。経験則では、一見できそうもないことでも、指示があれば、どうしたらできるのかを必死に考えざるを得なくなります。

 現に、上から指示が出ている会社とそうでない会社とでは導入への対応が全く違います。
ある会社で当社の提案が現場レベルでは一旦は断られたのですが、後日、「社長から節電を実現するため仕事の仕組みを見直すよう指示が下りてきたのでもう一度相談に乗ってほしい」、と今度は工場長から電話がかかってきたこともありました。上からの指示がないとなかなか取り組めないものです。

「スペインのシエスタ」

 スペインでは、仕事の日でもゆっくり昼食をとった後、長い昼休みを取ります。この「シエスタ」は、日本ではよく「午睡」と理解されていますが、必ずしも昼寝とは限らないそうです。要は昼下がりにゆっくり休むことで、何をして休んでも良い時間帯のことです。スペイン(に限らずヨーロッパの多くの国や中南米)では、商店、企業、銀行、官公庁などの多くが休業時間に入ってしまい、旅行をしていて面食らった方も多いはずです。

 シエスタとはもともと「sexta」といい、語源的には「日の出から6時間後」という意味で、おおむね午後1時から4時くらいの間の昼下がりの時間帯を指します。

 シエスタの目的はいろいろ言われています。日向で労働するために日差しを避けるため、ということもあるでしょう。一方、人間の体の一日の生理的なサイクルでは、午前中に活力が上昇し、正午ごろに最も活性化され、午後から低下して、午後4時くらいから再び活力上昇に転じるそうです。従って心身の活性が低い午後の2時から3時ころを昼寝時間に充てることは科学的には合理的なことなのだそうです。

 さて、前置きが長くなりましたが、一日の体のサイクルだけでなく、一日の電気のサイクルから見ても、シエスタは合理的だと思います。標準的な電力ピーク時間帯は13時~16時ですから、ほぼシエスタと一致するのです。

 多くの日本人は固定観念に縛られて、昼休みのあと午後を休むなんてとんでもないと思われがちです。しかし、2~3時間昼寝をして休んだ分、午後4時くらいから今よりちょっと遅くまで仕事をして、朝も今より早くから仕事をすれば、節電効果も、ピークスライド効果も抜群だと思いませんか。

 日本でも、特にサービス業では、設備稼働を伴う製造業よりも容易に、午後の電力ピーク時に休業することはやろうと思えばできると思います。

 ピーク時間帯に休みをスライドすることは、委託管理業者ではなく、自分で考えてやればできることです。

 日本のレストランでも、ランチ時間に休むことはさすがにできなくても、ランチ後はディナーまで、つまり14時から17時までは閉店、という店は多くあります。

 自分の仕事に則したやり方で、トップダウンで方針を出してピークスライドをすることをお勧めします。

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川合 善大

経営戦略家。株式会社にちほシンクタンク、にちほエコ株式会社や株式会社日本電気保安協会などを傘下にもつ、にちほHD(Nichiho Holdings) CEO。 また社会福祉法人 七施 理事長として認可保育園を経営。 著書に「3%の経営発想力」、「儲ける社長の『頭の中』」、「利益を生み出す逆転発想」などがある。

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