HOME

仕事の「ピースクライド」でピーク時の電力消費量を減らす

「ピークカット」と「ピークスライド」

 ここではピーク時の使用電力の削減手法について考えていきます。ピーク時の調整には大きく分けて「ピークカット」と「ピークスライド」がありますので、以下でその二つの違いを説明していきます。

  「ピークカット」とは、電力需要のピーク時の利用を単純に削ることです。例えばピーク時間帯にエアコンやその他設備機械のスイッチを強制的に切ることは、「ピークカット」にあたります。ピーク時の使用電力削減の手法としては一番単純な方法ですが、本来稼働すべき設備機械を無理やり止めたり、暑い時間帯にエアコンのスイッチを切ったりする等しなければなりませんので、生産量の減少や生産効率の低下や、あるいは従業員に我慢を強いることを覚悟して行う必要があります。

  一方「ピークスライド」とは、ピーク時間帯に使用していた電力をピーク以外の時間帯にずらして使用することで、総電力量を変えずにピーク時間帯の使用電力を抑える手法です。総電力量を変えないで済むという点では、利用者にとっては「ピークカット」より影響の少ない手法です。また、電気設備の使い方の変更であり、設備投資はピークカットに比べて比較的少額であるといえます。仕事のために使う電気は、仕事のやり方を変えれば、電力の使用量も変わってきます。つまり「電力のスライド≒仕事のスライド」と考えて、仕事のやり方自体を見直す必要があります。

図2:ピークカットとピークスライドの違い


出典:にちほシンクタンクにて作成

電力会社視点の電力ピークとユーザー視点の電力ピーク

 さて、これまで何度か「ピーク」と言う言葉を使ってきましたが、ここでは「ピーク」が指しているものについて改めて整理しておきます。

下図は夏季における電力需要を時間帯別に示したものです。

午前10時頃から電力需要量は最大領域に入り始め午後2時から3時のピークを経て夕方5時頃から減り始めることを表しています。このマクロの需要ピーク時間帯の電力使用を、他の時間にずらすことが一般的に言われているピークシフトです。この“全体の”需要ピークは、電力会社、即ち供給者側の視点です。従って、電力会社が使って欲しくないピーク時間帯の料金を高く設定して、ピーク時以外の料金を安くして、一日の需要カーブを平準化しようという発想で提案されているのが電力会社による「ピークシフト型」プランです。

図3:電力会社視点の電力ピーク


出典:「原子力2010(資源エネルギー庁)」

 一方、マクロの需要ピークに対して、それぞれの電気利用者にとっての電力使用のピーク、つまりミクロで見た時の電力ピークが存在します。電気利用者個別の「“ミクロ”の需要曲線」は、社会全体の「“マクロ”の需要曲線」と大抵は近いものになりますが、個々に見ると業種・業態等によって多少状況は異なります。下図は資源エネルギー庁が2011年に公表している資料からの抜粋転載です。

図4:ユーザー視点の電力ピーク


出典:「節電アクション 中・西日本版(資源エネルギー庁)」

 業種によってグラフの形状が異なっていることがお分かり頂けると思います。
 例えば、オフィスビルの場合は、上で示した「“マクロ”の需要ピーク」グラフと比較的似た曲線を描いています。午前10時から夕方5時の間に高い電力消費が続き午後2時から3時にかけてピークを迎えます。因みに電力消費のうちエアコンがほぼ半分の50%、照明とOA機器が約40%を占めると言われています。
 製造業では大きく分けて昼間に操業する形態(金属加工、部品・機械製造と組み立てなど)と昼夜連続操業し稼働時間が長い形態(食品加工、電気・半導体製造など)とに分類できますが、ここでは昼間操業する形態を取り上げています。電力消費のうち生産設備と装置が60%近くを占め、コンプレッサー、ポンプ、ファンなどのユーティリティ設備が20%前後を占める為、昼休みを挟んで生産機械・設備が本格稼働する午前10時前後と午後2時から3時にかけ、一日に2回のピークが発生し、「“マクロ”の需要ピーク」との差が大きくなります。
  ホテル・旅館業の場合では宿泊客が起床する頃にピークが発生し午前のチェックアウト後から夕方6時頃のチェックインまでピーク時の90%以上の需要が高水準域で持続されていますので、“マクロ”の需要ピーク」との形状の違いは更に大きくなります。

 このように業種・業態と設備機器の稼働状況によって電力需要ピークが異なりますので、ピークカット、ピークスライド等といった場合の「ピーク」が何を指しているかをしっかりと理解しておくことが必要です。ピーク時間の使用電力をずらすといった場合、「“マクロ”の全体需要ピーク」時間帯から電力使用をずらすというものもあれば、「“ミクロ”の個別需要ピーク」時間帯から電力使用をずらすというものもあります。電力会社がよく利用しているピークシフトという言葉は、「“マクロ”の全体需要ピーク」からシフトすることを表していますので、「“ミクロ”の個別需要ピーク」からずらすことをピークスライドと呼び区別することにします。この二つは似ているようですが、その効果は大きく異なります。詳細は後述しますが、ピークスライドに取り組むか否かで支払う電気料金に大きな差が出てくるのです。

前の章へ  次の章へ

目次

川合 善大

経営戦略家。株式会社にちほシンクタンク、にちほエコ株式会社や株式会社日本電気保安協会などを傘下にもつ、にちほHD(Nichiho Holdings) CEO。 また社会福祉法人 七施 理事長として認可保育園を経営。 著書に「3%の経営発想力」、「儲ける社長の『頭の中』」、「利益を生み出す逆転発想」などがある。

お問い合わせ先


株式会社にちほシンクタンク ・ 株式会社日本電気保安協会 ・ にちほエコ株式会社