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世の中、節電を取り違えている

過去の節電と今回の節電の違い

 節電の本質について、もう少し詳しく考えてみたいと思います。

 東日本大震災による原発事故以来、電力不足が叫ばれている昨今ですが、電力不足が問題になったことは何も今回が初めてではありません。一口に節電といってもその目的は様々であり、目的ごとにその対応が異なって然るべきです。そのことを踏まえてこの章では今回の節電の本質に迫りたいと思います。

 これまでの歴史を振り返ると節電への意識が大きく高まったことは東日本大震災以前に2度あったかと思います。一度目は1970年代から1980年代にかけてのオイルショック(※1)、そしてその次が1997年に京都議定書が採択された時のことです。

 皆さんご存知のことと思いますが、オイルショックは1973年の第四次中東戦争に端を発した世界的な原油の供給逼迫と価格高騰、そしてそれに続く世界的な経済混乱のことです。当時日本では総発電量の約7割を火力発電に依存していましたから、原油の不足は即電力不足に直結したのです。この出来事により日本では電力使用制限令(※2)が発動され、昼夜を問わず電気使用総量を減らすことが求められました。大型小売店等の営業時間の短縮、深夜テレビの自粛、ネオンの点灯禁止、民間事業者に対する一律10%の節減要請等の対応を余儀なくされたのです。
  また、京都議定書は地球温暖化防止の為の「気候変動枠組条約」に参加する国によって1997年に採択された議定書です。その中でCO2など温室効果ガスの削減を具体的な数値目標で謳っていることから、国内で省エネの機運が高まることになりました。

 この両者に共通することは何でしょうか。それは総量としての電力量を減らす必要があったということです。オイルショックの際は原油の供給量の問題、京都議定書の際は温室効果ガスの排出量の問題と、発電という工程を挟めば入口と出口の違いはありますが、総電力量を抑えなければいけない、という点では一致していたかと思います。

 一方、東日本大震災以降の電力不足はどういった性質のものかというと、原子力発電所の停止に起因する電力供給能力の低下により、ピーク時の電力需要が供給を上回るということです。これはあくまでも“ピーク時”という限られた時間帯だけの問題であって、総量としての電力が不足しているということとは異なります。世間ではどちらのケースも「電力不足」の一言で捉えられていますが、その性質は決定的に異なります。オイルショックや地球温暖化対策の節電は、全体的に電力量を抑えることが節電の定義でしたが、今回のような電力不足においては、いかにピーク時に電気を使わないかということが「節電の本質」になるのです。

図1:以前の節電と今回の節電の違い


出典:にちほシンクタンクにて作成

(※1)1970年代から1980年代にかけてのオイルショックは厳密に言うと2回に別れていますが、時期が異なるだけで節電の本質は変わりませんのでここでは一度とカウントします。

(※2)正式名称は「電気使用制限等規則」。

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目次

川合 善大

経営戦略家。株式会社にちほシンクタンク、にちほエコ株式会社や株式会社日本電気保安協会などを傘下にもつ、にちほHD(Nichiho Holdings) CEO。 また社会福祉法人 七施 理事長として認可保育園を経営。 著書に「3%の経営発想力」、「儲ける社長の『頭の中』」、「利益を生み出す逆転発想」などがある。

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